投資先のスタートアップの分析 (Deal Checklist)
投資するスタートアップ企業を選別する際は、通常の株式投資と違って開示情報なども少なく、会社の良し悪しを判断するためのデューデリジェンスを行うのが難しい場合が多いです。また、どのステージで投資に参入するのかという事も重要になってきます。この章ではクラウドファンディング投資の際のDeal flowを分析する上で一般的に使用される方法についてDeal checklistとしてまとめてみようと思います。
Weed out the Losers
Early Stageのスタートアップがどのような資金を必要としているのかという分析から始まり、その会社が参入しようとしているマーケットを理解を深め、将来性のあるクラウドファンディングのDealを見つけるというのは株式ポートフォリオを少しいじるのに比べて、非常に難しいですが、その分成功すればリターンは当然大きくなります。半面、経験のあるエンジェル投資家でも半分のポートフォリオは2,3年以内にやられてしまうと言われている現実があります。
このような事を考えると、最高のDealを見つけるという事はまずは最低のDealをリストから除外するという事が成功の可能性を上げるうえで一番最初にやるべきことであると考えられます。それでは、どのような会社がBad Dealである雑草であり、除外する対象になるのでしょうか。悪いDealによくみられる警告サインについてリストアップしてみましょう。
- 創業チームの誰もがその業界の十分な経験がないのは危険です。業界がどのように動くのかという現実的な知識に詳しいアドバイザーが初期段階で必要です。
- 創業チームの誰もが財務の経験がないのも危険です。創業チームにいない場合は実際の数字に詳しいアドバイザーが必要です。
- 経営陣のマーケットシェア獲得の見積もりが過大な場合は危険です。スタートアップ企業が初年度で10%のマーケットシェアを新たに取るなどとうたっている場合は眉唾ものです。基本的にはうまくいって一桁が現実的な所です。
- 経営陣の出す工程表が楽観的過ぎたり、現実的でなかったりする場合は危険です。発達段階の会社が、ゼロから始めて2,3年後にIPOなどというのは基本的には非現実的です。
- 競争相手を過小評価している場合も危険です。たとえどれだけニッチな分野だとしても、必ず競争相手がいます。最新の技術やプロダクトなどで競争相手がいないと言っている経営者は無知か自信過剰です。多くの場合、業界に競争相手がいて負けないよう意識しながら発展していく状況の方が健全な場合が多いです。
競争過密なマーケットにいるスタートアップに投資するのは多くの人が敬遠するかもしれませんが、スタートアップがそういう業界にプロダクトを持っている場合は、何かその会社独自の強さを持っている可能性があり、それが他社をひきつけて買収される事につながる可能性も考えられます。
財務に関しての注意事項
ここでは簡単に経営者の財務に対する姿勢も含めての警告サインを見ていきます。
- たとえEarly Stageのスタートアップでも財務報告が全くなく、コストの見積もりや支出の見直しをしていないのは危険です。利益がなくとも、コスト体制や売り上げの見積もりは出していないと危険です
- 3年以上売り上げが出ていない場合は危険です。製薬業界などプロダクトを出すまでに長時間かかる業界は別として2年以内には売り上げが出ている事が望ましいです。
マーケットに関して
スタートアップ企業の創業者はマーケットシェア獲得のために競争するよりもニッチなマーケットを目指す傾向があります。つまり、ターゲットとするマーケットが現実離れしている可能性があります。まずは危険信号から見ていきましょう。
- スタートアップがターゲットにしているマーケットのトータルのサイズが$100M以下の場合は成長が期待できないかもしれません。スタートアップが5%のマーケットシェアを取って売り上げが年間$5Mになりますが$200M以上のマーケットをターゲットにしている会社が望ましいです。
- 各マーケットに対してのコストの見積もりが競争相手と比べて非常に楽観的である場合は、競争相手の上場企業の年次レポートなどを確認して真偽を確かめる必要があります。スタートアップ企業のコスト体制が上場企業よりも効率的なことは稀です。
- スタートアップが非常に幅広くいろんなマーケットに参入していたり、相当ニッチな所のみでビジネスをやっているかというどちらか両極端の場合も危険信号です。ある程度のサイズのトータルマーケットは必要ですが、幅広すぎるマーケットではスタートアップはそれぞれの競争相手と戦い続けることはできませんし、ニッチすぎる場合はマーケットの伸びが期待できないことになります。
次にマーケットリサーチをする上で重要になってくることは何でしょうか。スタートアップ企業に投資する際は、自分もビジネスパーソンの一人になり、シビアにスタートアップ企業がそのマーケットで戦っていけるのかを判断できるようになる必要があります。どのようにマーケットを見ていけばいいのでしょうか。
マーケットサイズと毎年のマーケットサイズ伸び率
そのマーケットでスタートアップ企業と競合他社がどれほどの売り上げを上げているのか
マーケットの状態(独占か共存か)
マーケットが地元限定かそれとも広いエリアもしくはグローバルか
企業がどのようにマーケットを取りに行っているか(低価格路線、プロダクトの品質、競争力の高いセグメント)
企業がどのような宣伝や広告を行っているのか
新しい競合他社がマーケットに参入した時の競合他社の反応方法はどうか(価格競争、もしくは違う方法)
プロダクトが季節ものなのか通年同じように売れるのか
プロダクトのセールスサイクルはどれくらいなのか。(材料購入から出荷まで)セールスサイクルが長くなると売り上げからキャッシュが入ってくるまでの時間が長くなるので会社を維持するための資金がその分多く必要になります。
ここ10年でマーケットはどのように変化したか、また次の10年でどうなるのか
最初のステップはマーケットサイズの把握です。例えばアメリカでの車とトラックの総売り上げ台数は19M台で、金額は$61Bです。幾多もの会社がこのマーケットでひしめき合っています。このようにスタートアップ企業が参入している全体のマーケットサイズを理解するのが最初のステップになります。
次にトータルのマーケットが毎年どれほど伸びているのかと、どれほどの売り上げを競争相手が上げているのかを見る必要があります。また、経営陣がうたっている売り上げ目標は単純にマーケットサイズで割ると必要なマーケットシェアになるので、それが現実的に可能かの判断ができます。
マーケットが2,3個の大きな競合他社に独占されている場合は彼らはシェアを強固にするために値下げや広告を打って立場を強化してくるので手ごわい環境ですが、ばらばらの競合他社によって共存されているマーケットでは、マーケットシェアを増やす事は難しくはない分、新規参入企業にシェアを奪われる危険も伴います。
スタートアップ企業は伸び続けなくてはいけませんので、マーケットが広いエリアもしくはグローバルでなくてはいけません。エンジェル投資家はマーケットが$100Mか$200M以下の企業は投資判断から外すと言われています。もし企業のシェアが2,3%ならば、自分の投資額が10倍になるには一体どれくらいマーケットが大きくならないといけないのかを考えた時に現実的ではないと思えますね。
マーケットには競争の厳しいセグメントがあります。価格競争とクオリティ競争です。低価格競争はサイズメリットのないスタートアップ企業には成り立たない分野です。スタートアップ企業はクオリティや差別化のできるセグメントで勝負するのが向いています。マーケットリサーチでは、企業がこのセグメントでそのプロダクトが確実に顧客を納得させることができるのかを調査する必要があります。
企業がどのような広告媒体(TV,インターネット、新聞)を使用しているのか、また競合他社はどうなのか。客を獲得する際の宣伝文句やそれが経営陣のマーケティングの方向性とマッチしているのかなども確認する必要があります。
競合他社が価格競争で新規参入の企業を排除する動きになった場合は自身が投資しているスタートアップ企業は追従するのか、また売り上げへの影響はどうなるのかなどを考察する必要があります。
Series-A,B,C…
スタートアップ企業はEarly stageでのテストプロダクトを成功させて次は大量生産モードに入るためにさらなる規模拡大の資金調達が必要になります。この初めの段階はSeries-Aと呼ばれてベンチャーキャピタルなどが参入しだすタイミングです。
その後、Series-B, Series-C, Series-D…と資金調達が繰り返されますがこの各段階はラウンドと呼ばれます。この段階のどこかで会社の利益はプラスに転換します。スタートアップ企業はValuationで大きさが図られますが、この段階では企業のシェアを多く手に入れようとした場合はSeed Stageで投資した投資家と同じくらいのシェアを何倍も多く投資する必要があります。
Seriesの最終段階では企業はIPOのコストのための資金調達をして投資銀行などとIPOの手はずを整える準備に入ります。この最後のラウンドはBridge-financingなどと呼ばれ、IPOまでのつなぎの資金調達という認識になります。
ここまで来るとあとは座してIPOを待つという段階に来ますので成功はすぐ目の前ですね。場合によっては持ち株を増やして会社のシェアを維持するための追加投資なども考えてもいいかもしれません。
Stage毎に投資する必要があるか
最期に株の希薄化について少し考えてみたいと思います。初めに投資した額で買った株は各ラウンドを経るごとに資金が流入することで希薄化していきます。
Seed Stageで$1000投資をしてもその後のStageで会社が新株発行で資金調達すると持っている会社のシェアの比率が希薄化により下がります。それを防ぐためには初めのラウンドで投資して終わりではなくその後のラウンドでも引き続き投資をする事によって自分の持っている会社のシェアの比率が下がる事を軽減する事が出来ます。
ただ、Seed Stageで$1000投資していればIPOまでこぎ着けた段階で株価が上がりますので会社のシェアを心配しなくても多額の利益が確定しているのでそこまで心配する必要はないと思いますが、戦略としては数撃ちゃ当たるのショットガン戦略で一発投資して次のターゲットに行くか、しつこく同じ会社に撃ち続けて希薄化を防ぐ戦略で行くか個人の好み次第で判断する必要があるのではないでしょうか。